米国の、ある経済誌のサイトを斜め読みしていたら、ヨシタカ・サクラダというアルファベット文字が目に唐突に跳び込んできた。ウワワっとパソコンの上に腹ばいになってしまった。記事は言うまでもなく、「私は人生を通じてパソコンを使ったことはない!」と見得を切る我が大臣を超爆笑している。「驚いちゃうよね」と言葉を振り、「この記事、フェイクじゃないよ」とオチまでつけている。

 いやはや、と思う。およそ50年、米欧の新聞や雑誌を観察し続けてきた我が身だけれど、新米かつ一介のヒラ大臣の日本での発言が、一般紙ならともかく経済誌に登場するなんて、ボクの知る限りお初のことだ。もちろん悪意を込めて書けば、“サクラダさん、やってくれたなあ”とひねくれたくもなる。

 記事は、ぜひ彼にタイピングの教科書を推薦しよう、いや、パソコンの基本を学ぶガイド本を寄付してやろうじゃないかと、かさにかかってレポートを締めくくる構えだ。てめえ、お前ら、もっとトランプの前代未聞の失態についてこそ論じてろ、このボケっ、と一方でつぶやいてみるのだけれど、なーんか唇寒しなんだなあ。ゲホホ---

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 そんな顛末のサクラダさんのおかげで、今日は、なんというか、しみじみ驚くべき発見をした。その経済誌の電子版が早朝に掲げる目次のたった数行の隙間に、“現在”が凝縮して描きあげられていたからだ。こういうことは、滅多にない。

 というのも。11月15日午前7時59分発のサクラダさんの記事から遡ること約25分。『オックスフォード英語辞典』が今年の言葉として「有毒」を選んだ、という報告が載っていたのだ。私たちは、まさに有毒なと唾棄すべき時代に生き疲れている、という含意で。報告は、裏打ちするデータも示している。同辞典サイドの調べだが、あまたの情報源を精査した結果、有毒という表現が対前年比で45%も増えていた---と。

 トランプ的な表徴体が撒き散らす“毒素”や“毒種”は、中国から吹き飛ぶ汚沙に負けじと世界を覆いつくしつつある。そしてそんな“毒化”は、ボクが暮らすこの国ででも猛威中だと思う。

 だから日本の今年の言葉には、「そだね~」が選ばれて欲しい。ボクは切望する。なぜか温かいし、この時代の毒相やそれに惑わされる人びとを解毒してくれる効能あらたかに響く気がするからさ。こう書くボク、女子カーリングのにわかファン? 「そだよ~」、悪かったね。

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 さて、さらに。解毒の記事から14分前の7時20分には、「驚くなかれ、AIはキミの指紋を偽造する」との警告文が鎮座していた。ニューヨーク大学の研究者によれば、疑似指紋はそれなりのシステムを使えば簡単につくれるし、それを各種認証に応用することも容易なのらしい。スマホは自分の指紋で起動する時代に、だから安心、なんてウソっぱちなんだそうな。

 1日に2690憶メールが飛び交ういま、人びとはかえって哀れな状況を生きさせられているのでは、とその直前の記事で警告しているのは、『人間に帰ろう』という本を近く出版する、作家のダン・シュアベルだ。彼は、「人びとの孤立」という含意を押し出して時代の毒相を語り明かしている。

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 こう書き綴ってみると、なんだか「やだね~」ってな気分を押さえきれないなあ。と思っていたら、救われる記事もあった。ダンさんの警告から1時間ほどまえ---

 キャンピングカーの売れ行きが、すこぶる好調らしい。ある専門企業の過去5年を見ると、なんと伸びは218%。書を捨てよ町へ出よう、と1968年に呼びかけた寺山修司さんをもじれば、ちょうど50年経った2018年のいま、スマホを捨てよキャンプへ出よう---が共鳴し合うべき文脈を秘めるメッセージなのかもしれない。

 根拠はある。スマホの売れ行きはついに横這いになったし、各種ソーシャルサイトの能動ユーザー数は明らかに減少に転じているのだ。