しばらく息をひそめていたのに、ここんところ何回か、島のプロフェッショナルたちと酒を酌み交わした。そんな行きがかりで、島にかかわる原稿も書いた。つまり、お久しぶ~りぃね♫♪ってな感じで、島がボクの方ににじり寄ってきた。ということで、島の話を書く。書かせていただく。って、前書きはこんな段取りでいいんかいな? ハチャ!

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 ちょうど20年前の秋。銀行系の研究所にいた親友が、「島のシゴト、しない?」って言ってきた。なぜ、ボクをご指名? さしたる理由を挙げるなら、ボクは客船のプロだった(ユニローグ20/200912月参照)こともあって、世界のいくつかの島を見知っていたからなのさ。そんだけぇ~、なんだけど。

 で、そのシゴト、「日本の離島、どうする?」ってなテーマだった。親友とボクは、まあ張り切って企画書を書き、コンペに勝ち、何がしかのお給金をいただいて報告書をまとめた。そして立ち至った報告会の冒頭、ボクは一発かましていた。「世界地図でみれば、日本がまさに離島なのに、その日本に属する島々をさらに“離島”なんて呼び習わしていることじたいが、おっかしいんとちゃう?」

 叱られると思ったんだけど、なぜか“オモろいやっちゃ”と思し召されたらしく、その後、いくつもの島に連れていっていただくことになった。そしてもちろん、かました一発が、異なるアングルからすると大間違いであることも、学んだ。

 あえて「リトウ!」って声を荒げて凄まないと、解決などおぼつかない問題が腐るほどあるってことを、ね。

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 いま、ボクが最も親しい島は、熊本県の御所浦だ。なにせボクは、この島の「民間大使第一号」なんだ。ウソじゃない。ちゃんと、名刺までつくってもらってある。どこにある島? ふーむ、天草諸島の懐のような南沖に、こそっと浮かんでるんだけど。ご興味な御仁は、地図を開いてちょ。

 まずもって、出会いがナニだった。ある天草女史に紹介されて、講演に行ったんだけど、その当日の早朝まで嵐が吹き荒れててね。飛行機、ダイジョーブかいなって、一晩中眠れなかった。でも、まあ運よく熊本空港に着いた。無口そうな壮年氏が出迎えてくれた。宇土半島をクルマで跳ばした。大嵐一過の水溜り群を、このヤロウと蹴散らしながら。

 愚頭をボンネットにぶっつけつつ、初対面のご挨拶をやり取りした。「熊本は、初めて?」「いや、つい最近まで、玉名の大学に来てましたから」「ほう、どの大学?」「○○です」-----「エッ」と彼はのけぞった。「それ、私の愚息が通ってるとこです」「ほう、講座は△▽でが」「ホントにっ!」

 壮年氏は、やおらクルマを道端に寄せ、ケータイを取り出して愚息クンと結んだ。「ふーん、ああそう、そうなの」と現地語を交わして、壮年氏はちょっと鼻先をうごめかしながら言葉を重ねた。「その先生と、いまご一緒してるんだよ。信じられる?」

 愚息クンはこう返事したらしい。「なんか、凄~くヘ~ンな先公でさ、忘れらんねーよ」。ボクも、苦笑しつつ想い出していたんだ。教室の後ろ隅の方に、首を縮めて坐ってた男の子を。全員に出身地を聞いたんだけど、彼は「天草です」って、ボソっと答えていたことを。-----伝わってるかなぁ。彼は「御所浦です」とは言わなかったんだ。つまり、そこにも、リトウという厳実が、ひっそりとだけどあったってことが。

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 関係ねー輩には、どーでもいい話し? ハイ、すんません。でも、何人かのご関係者には、偶然という名の何ものかがまとわりついた結果の、出会いだったのさ。だから、その後、何回か御所浦にお邪魔した。委細は省略するけど、忘れられない秘話は書き切れないほどある。

 たとえば誇らしいのは、本渡という天草の港からフェリーに乗って、御所浦の桟橋に近づいていくときのこと。ターミナルのスピーカーから、「ただ今ぁ、本島民間大使第一号のスナカワさんがぁ、ご到着でぇーす」って歓迎のアナウンスが、島中に響き渡るんだよ。最初はこっ恥ずかしかったんだけど、そのうちに、ね。桟橋に近づくにつれ、餌を待ってる子犬のように、尻を振ってアナウンスを待っているボクがいて。実声が響いたとたん、目が濃霧状態になっちまって。

 墓場まで持って行くべきなのが、島のてっぺん、烏峠でのバーベキューさ。ボクが行くとなると、何人もの友人たちが、鯛や太刀魚やエビやの大量を担ぎ上げていてくれて(ま、ホントはクルマでだけど)、ゴーカイに炭を炊いてでっかい金網で焼き上げ、むさぼり食うんだ。こういう稀有な体験をすると、ものを口にするさい、みだりに“旨い”などとは言っちゃぁいけないことを、学ぶね、心底。

 ついでに暴露すると、この峠の上のバーベキュー、夜にやるのがサイコーなんだ。だって、島中の虫どもが集結してきて祝ってくれるんだもん。これは怖ろ楽しいよ。なにせ1メートルもあるバッタが背中に張り付いて、ボクをハグしてくる。なんか、友人たちの演出めいててね。ボクが悲鳴を挙げて逃げ回る御姿も、酒の肴のひとつってことさ。「それも、焼いて食ったら旨いですよ」なんて邪言が飛んで-----

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 こんな御所浦。後に親友になった初対面氏の尽力あらたか、修学旅行の小中学生が訪れるようになり、今じゃあ、大検予備校のスクーリングまでが執り行われている。廃校になった教室を使い、生徒たちは民泊しあって-----嬉しい話しさ。

 という文脈で、ちょっとナニナニな話をお裾分けしちゃおう。多分にフィクションめくけど。

 ある昼下がり、桟橋にフェリーが着く。予備校生が、三々五々とタラップを降りてくる。そのなかに、ちょっと目立ってる若女がひとり。髪は金色でピンクのメッシュ。おまえさん、アカプルコにでも来てるつもりかってな感じの、肉体丸出しの衣装とメーク。おみ足には、これも純金色のミュールをつっかけて、もちろん咥えタバコさ。おそらく、「フンっ、あたしゃ、こんなとこに、来たくて来てるんじゃないんだかんね」とうそぶきつつ。

 ところが、なのさ。10日か2週間経った日のおなじ桟橋で。かの若女くんが、世話になった家のおばあに抱きついて、それはもうあられもなく泣きじゃくってる。「アタシ、必ず戻ってくるからね。この島に、ゼッタイ帰ってくるからね」。万端を心得ているおばあは、彼女の背中をやさしく擦ってやりながら、言葉をつなぐんだ。「わかってるって。ここはもう、あんたのふるさとなんだから。元気で頑張るんだよ」

 まあ、しょせんは旅人目線。加えての勝手想いなんだろうけど、でも、ボクも-----